年次有給休暇制度は、労働基準法で定められた従業員の権利です。企業側から見れば、付与や取得義務など守るべきルールでもあります。本記事では、年次有給休暇制度の法的要件から実務上のポイント、効果的な運用方法まで解説します。取得義務を守らない場合の罰則についても解説していますので、ぜひ最後までご覧ください。年次有給休暇の目的や付与発生要件従業員に心身の疲労を回復させ、ゆとりある生活を送ってもらうことを目的としています。使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した従業員に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。引用元:労働基準法 | e-Gov 法令検索つまり、継続して6か月以上勤務し、全労働日の8割以上出勤した従業員には、年次有給休暇が付与されます。パートタイム・アルバイト従業員や契約社員でも、条件を満たせば、所定労働日数に応じて年次有給休暇が付与されます。従業員が有給休暇の取得理由を企業に伝える義務はありません。旅行や趣味、家族との時間など、仕事以外の活動を楽しむことができます。とはいえ、一般的な社内のコミュニケーションとして、企業から従業員へ取得理由を尋ねることは自然なことですので、違反にはなりません。年次有給休暇制度によって、従業員の健康維持、生活の質向上、ひいては労働意欲の向上に繋がることが期待されます。年次有給休暇の付与の日数やタイミング年次有給休暇が付与されるには、以下2つの条件を満たす必要があります。雇い入れ日から6か月経過全労働日の8割以上出勤それぞれ簡単に解説し、翌年以降の付与日数についても解説します。雇い入れ日から6か月経過年次有給休暇は、法律で定められた基準日に付与されます。最初の基準日は、雇い入れ日から起算して6か月が経過した日です。基準日雇い入れ日から6か月経過した日付与日数10日ただし、企業によっては、基準日を待たずに年次有給休暇を付与する、いわゆる前倒し付与を行う場合があります。入社時付与などは、採用の魅力づけにつながります。前倒し付与は、企業が任意で行うものであり、法律上の義務ではありません。また、企業は基準日の統一も可能です。中途入社が多い企業の場合、基準日を統一することで年次有給休暇の管理を簡素化できます。基準日は、会社が自由に設定することができます。一斉付与や上半期入社者・下半期入社者で基準日を統一するなどし、4月1日、10月1日などを基準日として設定する会社も見られます。ただし、法定で定められた付与日から遅れることなく付与する必要がありますので注意が必要です。全労働日の8割以上出勤年次有給休暇の取得条件として、全労働日の8割以上出勤する必要があります。出勤率は、出勤日数を全労働日で割って計算します。ここで重要なのは、計算から除外される日と、出勤したとみなされる日があることです。全労働日から除外されるのは、会社都合によって休業した日や正当なストライキの日などです。また、休日労働をさせた日も全労働日からは除外されます。例えば、新型コロナウイルスによる会社判断での休業は、会社都合によって休業した日に該当し、全労働日から除外されます。一方、業務上の傷病により休業した日、産前産後休業を取得した日、育児・介護休業した日、年次有給休暇を取得した日は、出勤したものとして扱われます。また、慶弔休暇や夏季休暇などの会社独自の特別休暇を取得した日を出勤したものとすることは一般的ですが、自社の就業規則を確認し出勤率の算定を行いましょう。具体例として、算定期間中のすべてが育児休業を取得していた日だった場合、出勤率は100%となり、実際の勤務した日数がなくても年次有給休暇を付与する必要があります。なお、遅刻や早退があった日も出勤日数に含まれます。年次有給休暇の付与日数年次有給休暇が付与される日数は、週の所定労働日数や勤続年数によって異なります。入社から6か月後の基準日に最初の有給休暇が付与され、その後1年ごとに付与される日数は増えていきます。フルタイム勤務の正社員や契約社員と、週の所定労働日数が4日以下かつ週所定労働時間が30時間未満のパートタイム・アルバイト従業員では次のように付与すべき日数が異なります。正社員・契約社員(フルタイム勤務)勤続年数付与日数6か月10日1年6か月11日2年6か月12日3年6か月14日4年6か月16日5年6か月18日6年6か月以上20日週の所定労働日数が4日以下かつ週所定労働時間が30時間未満の従業員の場合は、週の所定労働日数や年間所定労働日数に応じて付与日数が計算されます。これを比例付与といいます。アルバイト・パートタイム週所定労働日数1年間の所定労働日数継続勤続年数6か月1年2年3年4年5年6年付与日数4日169日~216日789101213153日121日〜168日5668910112日73日〜120日34456671日48日〜72日1222333育児・介護休業を取得した従業員については、その期間も勤続年数に通算されるため、休業期間を含めた勤続年数に応じた年次有給休暇が付与されます。時短勤務の場合も、週の所定労働日数や所定労働時間に応じた付与日数が算定されます。法律で定められた最大付与日数は1年間に20日ですが、就業規則などによりこれ以上の付与日数を定めることも可能です。年次有給休暇の管理企業は、従業員が取得した年次有給休暇を適切に管理する義務を負います。年次有給休暇の管理において重要なポイントは下記の通りです。有効期限と繰り越し有給休暇は付与から2年間取得可能で、未使用分は翌年に限り繰り越すことができます。例えば、4月1日に10日間の有給休暇が付与された場合、翌年3月31日までに使用しなかった日数は、さらに1年間取得可能です。1年の付与日数は最高20日で最大保有日数は40日となります。これは時効が2年であることに基づいています。ただし、最大保有日数を上回る有給休暇を従業員に与えることは違法ではありません。時効で消滅した有給休暇を、傷病休暇などの特別休暇の制度に積み立てる企業もあります。時季変更権有給休暇を取得する日は、従業員が指定することで決まり、企業側は指定された日に有給休暇を与えなければなりません。ただし、事業の運営に支障が出る場合、企業側には従業員の有給休暇日を変更できる権利が認められています。これを時季変更権といいます。ただし、時季変更権の行使は客観的に合理的な理由に基づき、従業員にとって不利にならない範囲で行使される必要があります。「代替人員を確保するのが困難である」という事実が必要となり、単に「繁忙期であるため」といった漠然とした理由では認められない場合がありますので、注意が必要です。有給休暇の取得は従業員の権利であり、企業は法令に則り年次有給休暇を付与しなければなりません。付与を行わないことや合理的な理由なく取得の拒否をすると、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。年次有給休暇管理簿の作成と保存企業は、従業員ごとに年次有給休暇の付与日数、使用日数、残日数などを記録した「年次有給休暇管理簿」を作成し、3年間保存する義務があります。現在では勤怠管理システムなどを利用して管理する企業も増えています。有給休暇の買い上げ法律上、年次有給休暇の買い上げは原則禁止されています。ただし、退職時に未消化の有給休暇がある場合などに限り、買い上げが認められる場合があります。上記以外にも、法定を上回る有給休暇の付与に対する買い上げなど就業規則等で定められた独自のルールがある場合がありますので、詳細は自社の規定を確認するようにしてください。年次有給休暇の計画的付与制度年次有給休暇の計画的付与制度とは、年次有給休暇のうち5日を除いた残りの日数について、労使協定を結ぶことで計画的に休暇取得日を割り振ることができる仕組みです。導入企業の有給休暇の平均取得率は導入していない企業よりも8.6%高くなっており、休暇取得へのためらいを感じることなく、従業員が年次有給休暇を取得できる効果があります。一般的に、次の3つの方法で運用します。企業全体での一斉付与班・グループ別の交替制付与個人別付与例えば、お盆休みや年末年始と組み合わせて大型連休を設定したり、誕生日や記念日に合わせて個人別に設定したりすることができます。ただし、従業員の個人的な事由による取得に備えて、必ず5日分は自由に取得できる日数として残しておく必要があります。本制度によって計画的な休暇取得が可能となり、職場全体の休暇取得が促進されるでしょう。参照:年次有給休暇の計画的付与制度年5日の年次有給休暇取得義務および罰則年に10日以上の有給休暇が付与される全ての従業員に対して、有給休暇を付与した日から1年以内に5日以上の有給休暇を取得させる義務が企業にはあります。従業員が自主的に5日以上取得している場合は追加の義務はありませんが、5日未満の場合は不足分を企業が指定して取得させなければいけません。時季指定を行う際には、従業員の意見を聴取し、希望に沿うよう努めることが求められます。また、就業規則を定めている企業では、この時季指定について就業規則への記載が必要です。年5日の取得義務に違反した場合、対象従業員1人につき30万円以下の罰金が科されます。年次有給休暇の給与計算における扱い年次有給休暇取得時の賃金計算には、3つの方法があります。最も一般的なのは、通常勤務と同じ賃金を支払う方法です。月給制社員もパートタイム従業員も、通常出勤したものとして計算するため、事務処理を簡素化できます。2つ目は平均賃金による方法で、直近3か月の賃金総額を基に計算します。具体的には、総額を休日を含む暦日数で割った額と、期間中の労働日数で割った額の6割を比較し、高い方を採用します。3つ目は健康保険法に規定する標準報酬月額を30で割って計算する方法です。ただし、3つ目の方法は労使協定が必要で、社会保険未加入者には適用できません。導入時は注意が必要です。どの方法を取るかは、その都度従業員ごとに選択できるものではなく、就業規則等にあらかじめ定めておき、その定めた方法で給与計算をしなければなりません。まとめ年次有給休暇制度は、従業員の心身の健康と生活の質を向上させる重要な制度です。企業と従業員が共に理解を深め、適切に活用することで、より働きやすい職場環境を創出することができるでしょう。年5日の取得は義務なので、企業側は従業員それぞれの取得状況を管理し、従業員に適切な取得を促す必要があります。弊社では、年次有給休暇付与フローや、年次有給休暇の取得義務管理に便利な、タスク管理ツール『mfloow(エムフロー)』を提供しております。タスクを可視化し人為的ミスを減らしたい、自社の成長を加速させたいと考えている企業はぜひお問い合わせください。サービスサイト:mfloow